会長挨拶:舟川一彦
挨拶
2001年11月に大手前大学で開催された第1回大会のことが今でも鮮明に記憶に残っています。そこには、故松村昌家先生をはじめこの会の立ち上げにかかわった第一世代の方々の、何か新しいことを始めようとしているという意識が満ちあふれていました。最初の単著を上梓したばかりの駆け出しで、会場に知り合いがほとんどいなかった私も、大会後の懇親会ではその場の熱気に煽られて(供せられたアルコールのせいも多少あったかも知れませんが)いささかの興奮を覚えずにはいられなかったものです。
第一世代の方々に模範を提供したのは、この学会のニューズレター第1号で松村先生が明かしておられるように、学術誌Victorian Studiesやケンブリッジ大学19世紀研究会の活動、そしてレスター大学ヴィクトリア朝研究センターの業績であり、それらに通底する学際的な(interdisciplinary)研究態度でした。英文学科に属しながら純粋な英文学研究の領分から外れると見なされがちな事柄にもともと興味をもっていた私にとって、この学会は自分に居所を与えてくれるもののように思われ、以後、この学会との関わりから私は多くのことを学ばせていただきました。
我々の会の名称にある「ヴィクトリア朝文化研究」は、ヴィクトリア時代という歴史的複合体を構成する諸要素が織りなす力学的関係の解明を目的とする学術的営みであり、それを遂行するためには個人の努力だけではなく、それぞれ専門家として異なる学問分野の研究に携わる研究者が集い、交差する場が必要です。その意味で我々の目的にとっては、異質なバックグラウンドをもつ研究者の接点となる学会という組織の役割がことのほか大きいと言えるでしょう。
この会の創立を担った先人たちの志を受け継ぎ、次世代の方々に刺戟と活躍の場を提供し続けるべく会の方向づけをすることができるよう、微力ながら努力する所存です。
2024年4月 舟川一彦(上智大学名誉教授)
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